「もう、あの人の言葉にはだまされないわ!」
相手をとっかえひっかえ続く夫(38)の浮気に、彼女(35)の堪忍袋の緒は切れそうになっている。
彼は広告会社に勤め、彼女は大学の研究室の助手だ。結婚して8年余り。信州のスキー教室で声をかけられたのがきっかけで、東京で1年ほど交際してゴールインした。
5年前に娘が生まれるまでは、2人とも仕事が忙しかったので、お互いの時間に干渉しないでいた。しかし、娘ができて彼女が家事や彼の身辺の世話をしはじめると、どうもおかしいと気がついた。
背広のポケットや、机に置いてあるメモに、暗号みたいな文字と電話番号が書いてある。会社や取引先とも違うようだ。問い詰めると、夫はスキを見て合コンや出会い系サイトの女性たちと遊んでいたことがわかった。なかには、深い関係になっている女性がいるとも推測された。
「ごめん、ごめん。ちょっと話がはずんで仲良くなっただけ。もうしないから」
そういう夫の言葉は信用できなかったが、追及し続けても自分が疲れるだけなので、彼女は一つの提案をした。
「じゃあ、念書を書いて。あなたの謝罪が本気なら書けるでしょ」
2人は約束事を契約にした。「第1条 互いに不貞行為をしない。第2条 不貞行為をした場合、直ちに相手方に慰謝料として金300万円を支払う」といった内容だ。300万円は夫の貯金から勘案した額だった。
それから半年、波風はやんだかのように見えた。ところがある日、娘が高熱を出して入院することになったので、出張中の夫をつかまえようと会社に電話をした。「出張はしてません。都内に営業に行っているはずです」。応対した社員の言葉に驚いた。最近は残業もしていないという。
案の定、夫は新しいカノジョの家に泊まっていた。「約束違反よ。300万円ちょうだい。それに、もうあなたとは別れるわ!」。彼女は夫に最後通告を突きつけた。
「そんなこと言うなよ。あれは2人だけの念書だし、取り消しだよ。まあ許してくれよ」。のらりくらりとかわす夫の態度に、彼女は怒り心頭に発した。
「キッパリと別れましょうよ! お金なんかなくてもいいから。娘は私が育てるわ!」。そんな言葉が、彼女の胸の奥から飛び出そうとしていた。 |
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