彼(30)は最近失恋した。3年間つきあった彼女に別の彼氏ができたのだ。腹が立つ半面、つらく、寂しかった。
そんなとき、出会い系サイトの案内メールが送られてきた。知らないサイトだった。以前、好奇心である出会い系に登録したことはあったが、当時つきあい始めた彼女に悪いと思ってすぐにやめた。
「いまはひとりなんだからいいか」。深夜、彼はサイトの入り口をクリックした。「確実に彼女に会えること保証!」といった文句が並び、両端にはアダルト系サイトへのリンクが派手にぶら下がっていた。彼は、同じような境遇にいそうな数人の女性にメールを書いた。
「キミもつらそうだね……よかったらメール交換しませんか」。すぐに眠れそうになかったので、アダルト系も少しサーフィンした。
翌日、女性たちから返事がきた。文体はどれもかわいらしく、どんな容姿かと根拠のない想像にふけった。そのなかで1人、長い文章で彼を励ましてくれる女性がいた。
「あなたは何も悪くないじゃない。大丈夫よ。まだまだこれから」
彼より少し年上だったが、元気が出た。それからしばらく、その彼女とのメール交換が続いた。自分の気持ちを丁寧に受け止めてくれていると感じられ、うれしかった。彼は思い切ってこんなメールを出した。「よかったら会いませんか」。返事は「いいわ、でも期待しないでね」。
1週間後、彼女と会った。外見は想像と違ったが、語り口はメールでのやりとりそのままだった。その後3回ほど食事をし、楽しく過ごした。彼女は通信販売の会社に勤めているといった。
4回目に会ったとき、彼女がおもむろに勤め先のカタログを取り出し、「時計を買ってくれない?」と言い出した。見ると8万円もしたが、営業成績をあげないと困るのだと彼女は懇願した。「仕方ないか、君のためだ」と彼は承諾し、契約書にサインした。
ところが、その翌日から彼女との連絡がうまくいかなくなった。メールを出しても返事が来ない。ようやく返事が来ても、忙しくて都合が悪いという。
「だまされたのかなあ……」。彼は意気消沈した。数日後、時計が送られてきたが、開ける気にはなれなかった。それだけではない。郵便受けには、アダルト番組の提供業者から身に覚えのない請求書も届いていた。 |
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