2年前、彼女(47)は大学時代の友人のA子(46)と会社を立ち上げた。15年前に結婚するまではバリバリに働いていたし、専業主婦になっても無駄遣いをせずにきたので貯金は十分あった。平穏な生活に物足りなさを感じ、事業を始めようと思ったのだ。
A子も同じ心境で、2人は意気投合した。女性の間でひそかなブームのアートなランプを買い付けて販売することにした。共通の友人Bがインテリア関係の商品を卸していたことも幸いだった。
会社では、2人が共同代表取締役になった。資金を500万円ずつ出し合い、取引の決済は両者合意の上で2人の印鑑を押すことにした。
開業当初は数点のランプが好評で売れたものの、半年もすると売れ行きが悪くなり、仕入れや事務所の経費であっという間に資金が目減りした。事業をどう立て直すか。ここで2人の意見が割れた。
A子は、テーブルや書棚など、ランプと一緒になって部屋を引き立てる商品を扱いたいと言い出した。一方、彼女はランプの品選びや売り方を工夫すべきだと考えた。
方針が定まらないまま、彼女は過労で体調を崩した。休養中、彼女はA子に会社を任せたが、重要なことは必ず相談してほしいと頼んだ。
半月後、元気になった彼女が朝、事務所に出向くと、A子は不在だったが、取引をしているBが現れた。
「もう大丈夫なんですか」
「おかげさまで。ところで、今日は何でしたっけ」
「ランプと一緒にインテリアを実験的に数点仕入れる話ですよ。商品の段取りがついたんで、一部前金払いのお願いで寄ったんです」
こう言うと、Bは150万円の請求書を差し出した。
「私は知らないわよ。仕入れ承認の印だって押していないし」。彼女は、びっくりした。
「A子さんから印をもらって段取りをつけたんです。彼女だって代表取締役でしょ」
「なに言っているのよ。うちは共同代表よ、あなたもご存じのはずじゃないの?」
「しかし、品ぞろえはA子さんがずっと仕切ってきたし、あなたも体調を崩されていたから、これでOKかと。今からそんなこと言われても困るんですが……」
「困るのはこっちよ。A子に確認するわ。とにかく払えないから」
そう言うと、彼女は急ぎA子をつかまえようと受話器を取り上げた。 |
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