「おたくには土地がいっぱいあるからいいわね」とよく言われる彼女(75)の悩みは、なかなか人にはわかってもらえない。
彼女はある地方で生まれ育ち、地元で不動産業を営んでいた夫と結婚した。1年半前、夫は病気で倒れ、現在も入院中だ。彼女も最近、足腰が弱り、体力も衰えてきたので、夫に代わって財産の相続を真剣に考え始めた。土地はあっても預貯金は少なく、相続時に子どもたちに負担をかけないかと心配なのだ。
長女(42)は20年前に交通事故に遭い、身体障害者となった。障害の程度は2級で、以来彼女がずっと世話をしている。教師の長男(49)は、妻子と近くに住む。
夫は土地が好きで、仕事でもうけがでると土地を買ってきた。現在所有する土地は宅地が主で約1500平方メートル。一部は自宅に使い、500平方メートルほどは近くにできたスーパーマーケットの駐車場として貸している。
残りはそのままになっている。土地がどんどん値上がりする「いい時代」もあったが、今では固定資産税の支払いだけでも大変だ。
半年前、マンション業者から土地の一部を売ってくれないかとの誘いがあり、長男と相談した。
「確かに、このまま遊ばせていても税金がかかるだけだし、売るのも一つの手だろうけど、それが一番いいやり方なのかなあ」
長男も、父が倒れてから相続の心配を始めていた。
「現金が入るのはいいんだけど、娘が将来困らないように考えて決めたいんだよね」
彼女はやはり、障害のある長女に何を残してあげられるかが心配だった。
「ただ売るだけじゃ、それはそれでかなり税金がかかると聞くし、仮におれが相続しても、うちの息子は都会ばかり見ているから、放りっぱなしになるかもしれないし」
長男も今のうちに手を打っておきたいと思っていたが、妙案が浮かばなかった。
「おれがおやじの土地にアパートでも建てて家賃収入を得るっていうのはどう? よく相続対策としてアパートを建てるって聞くじゃないか。でも、土地の使用料がタダだと贈与になって贈与税がかかると困るけど」
「娘の生活費などはどう考えたらいいの? そこから出してもらえるのかい?」
彼女と長男の相談は、なかなか明るい出口を見つけられずにいた。 |
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