半年前、彼(45)のもとに突然、学生時代の友人A(45)の知人であるBから電話があった。Aの100万円の借金を、保証人の彼に支払って欲しいという。彼は最初何のことかと思ったが、次第に記憶がよみがえってきた。
話はかれこれ11年前にさかのぼる。Aは当時1人で小さな雑貨商を営んでいたが、資金繰りに困り、Bから保証人をつけるという条件で100万円の借金をしたのだ。
「すまない。いざという時、やっぱり持つべきものは友だよ。迷惑かけないから」。Aが手を合わせて頼むものだから、彼は保証人を引き受けたのだった。その数年前、彼もまた仕事の資金が足りず、Aに70万円近く借りたことがあり、恩義もあった。
だがそんなことは、すっかり忘れていた。
「Aの借金でしょ? Aに請求してくださいよ」と彼が言うと、Bは言った。「それが、Aが所在不明なんですよ。私もAとのつきあいは長いし、世話になったこともあって、催促してこなかったんです。でも急にまとまった現金が必要になったんでAに連絡を取ろうとしたら、家を引き払っていたんです」
彼も久しくAとは連絡をとっていなかった。いったん電話を切り、慌ててAに電話をかけたが、番号は現在使われていない。店にも行ったが、シャッターが閉められていた。
Bによれば、Aは借金の返済をまったくしていないという。親しい知人間の借金だったので無利息だが、保証人の印を押した手前、彼は肩代わりをしないわけにはいかないと思い、すぐに100万円をかき集めてBに支払った。
「Aはどこへ行ったんだろう? そんなにお金に困っていたのか?」
それから彼はAを探し出そうと、学生時代の名簿を片手に片端から友人に電話をかけて聞いて回った。なかなか見つからなかったが、ようやく、とある居酒屋で働いているとの情報を得て、彼は早速Aに会いに出かけた。
「何の連絡もなしに行方不明になるなんて。借金、肩代わりしておいたから少しずつでも返してくれよな」
働くAの肩越しに彼がそう言うと、Aは向き直って答えた。
「あれ? 返す必要なかったんだよ。10年の時効で借金は消滅だよ。借金消滅ってことはお前にも返さなくていいってことだよ」
感謝されると思いきや、Aの予想外の踏み倒しに、彼は急に怒りが込みあげるのをとめられなかった。 |
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