「何やってんだ! 相手が契約しようかという時に欠勤するとはどういうことだ!」
コンピューターシステムを販売する中小企業で営業課長をしている彼(41)は、部下のA(30)を呼び出して怒鳴りつけた。
「すみません。最近体調が悪くてどうも……」
Aはまじめで人づきあいもよく、これまでの勤務状況も良好だった。ところが、ここ数週間、顧客との打ち合わせをすっぽかしたり、欠勤したりする回数が増えていた。そしてついに無断欠勤した。
彼が課長になったのは1年前。年々販売競争が激化し、低迷が続く売り上げの向上という使命を与えられ、彼も必死だった。課長になって最初の3カ月は部下に盛んにハッパをかけたせいか、対前月比で売り上げがやや向上した。
ところが、4カ月目に入って、Aの様子がおかしくなった。不手際が重なり、顧客からしかられるわ、契約を逃すわで、課の営業成績が下がってきている。Aは、彼が課長になる半年前に営業課に移ってきた。もともとは技術職だが、営業のてこ入れの一環としての配置転換だった。
「営業はぎりぎりの人員でやっているから、あんまり休まれると困るんだよ」
彼はAに注意したが、Aのことも考えて、無断欠勤は有給休暇で何とか処理した。
しかし、その後もAの様子に変わりはなかった。Aを心配してこれまで穴埋めをしていた同僚の反応も冷ややかになってきた。
Aのフォローの負担が大きくなって営業を拡大することができず、売り上げも伸び悩むと、それが課の社員全員の給与にはねかえってきた。能力主義の会社だったので、業績と給料が完全に連動しているからだ。
彼はさすがにまずいと思い、Aの自宅を訪ねた。
「どこが悪いんだ? 医者に診てもらっているのか?」
彼はベッドに横になっていたAに言った。
「自分でもわからないんです。どうしてこんな状態なのか。仕事に行かなきゃいけないと毎朝思っているんですけど、体が動かないんです」
Aは自分をコントロールできないつらさを語った。
数日後、彼はAを病院に連れていって精密検査を受けさせた。しかし、明らかな異常はどこにも見当たらなかった。
彼が課長になって半年後、課の売り上げが発表された。結局、対前年比でマイナス。管理職としての彼の給与もマイナスとなり、悩みは増すばかりだ。 |
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