金融コンサルタントの彼女(45)。世界中を飛び回り、ここ数年は海外に駐在していたが、去年父を亡くした。1人になった母(70)を世話しようと、帰国を決意した。
父は亡くなる少し前、母の老後の生活費にと、5000万円で都内に土地を買い、そこにアパートを建てる計画を持っていた。彼女もそれを聞いていたので、父の一周忌が終わると、具体的な段取りに入った。ところがその矢先、思わぬ問題が持ち上がった。
「土地の一部に公園予定地があるのと、将来この隣接道路が拡幅される計画がありますね。この制約を考慮すると土地が変形地となって、ご要望のアパートを建てるのは難しいかもしれません」
アパートの設計を依頼した建築士が、図面を指さしながら彼女と母に言った。図面を引く前に土地に制約がないか調べたところ、父が買った土地には、都市計画法上の権利の制約がかかっていることが判明したというのだ。
母は「こんな制約があるなんて、不動産業者は何も言っていなかったけど」と言う。「アパートを建てることは業者に伝えたんでしょ?」と彼女が念を押すと、「もちろんよ。3階建てで広めの間取りにしたいからそれに合う土地を探して欲しい、ってお父さんがお願いしていたもの」と不安そうな表情で答えた。
翌日、彼女は仲介した不動産業者に連絡を入れた。
「都市計画の制約ですか。私どもでも調べているはずですが」
電話口で業者の男がとぼけた調子で答えるので、彼女は強い口調できっぱりと言った。
「どうしてくれるの? このままでは、思い描いていたアパートを建てられないから、契約を解除したいわ」
すると、電話の男は「上司と相談する」と言ってしばらく電話口から離れた。電話の向こうでのやり取りに2、3分待たされた後、男が再度電話口で返答した。
「何かの間違いじゃないかと思います。こちらでも調べてみますよ。仮に制約があっても、役所の職員も知り合いですから、かけあってみます」
随分勝手なことを言うものだと彼女は思った。
1年ほど前の契約当時、業者から手渡された重要事項説明書にも改めて目を通したが、土地に制約があるなどとはひと言も記されていない。
彼女は契約の破棄を訴えようと決意した。 |
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