<彼氏のケース>不動産の共有やめたい

3カ月前、彼(54)は母親(80)を病気で亡くした。彼はこの機会に弟(51)と2人で遺産を整理しようと思った。

  3年前に父親が亡くなったとき、父親名義で残された不動産は、東京都内の自宅の土地(5000万円)と建物(1000万円)、及び祖父から引き継いだ茨城の宅地(4200万円)だった。当時、兄弟ともに生活が苦しく、激しく争った。結局だれがどの不動産を承継するか明確に決められず、都内と茨城の土地はそれぞれ彼と弟が2分の1ずつ持ち合い、建物はそこで暮らす母親名義にした。

  母親が亡くなった今、都内と茨城の不動産の共有状態を解消したいと考えた。その方がお互いすっきりするし、けんかのもとを未然になくしておける。今後もし兄弟関係がこじれたとき、今のままではどちらの不動産も処分が面倒になることが予想されるからだ。

  「お前が都内の土地と建物を全部持てばいい。この3年間よくやってきてくれたし、おれは茨城の土地でいいから」

  母親の四十九日が終わった席で、彼は弟に話を持ちかけた。この3年で彼の仕事も明かりが見え始め、父親亡きあと弟夫婦が母親の世話を結構やってきてくれたことが、彼の気持ちを軟化させていた。

  「本当にいいのか、兄さん。兄さんの家も大変じゃないか」

  弟も3年前のように遺産を巡って争いたくはなかったので、兄の提案に感謝した。

  「ただ、建物の名義変更は相続だから単純だろうけど、土地は相続とはいえないよね」

  「おれたちの間で都内と茨城の土地の持ち分を贈与しあうってことかな?」

  「でも、それだと贈与税がかなりかかってくるんじゃないか。贈与税って税率が高いらしいから、ばかばかしい気もするなぁ」

  さっそく彼が税務署に問い合わせると、贈与税率は最近下がったとはいえ、1000万円を超えるものには50%もかかるという。何かいい方法はないものかと尋ねてみたが、「さあ、どうでしょうかね……普通にやればいいんじゃないですか」と税務署の窓口はにべも無い。

  贈与税額は弟は970万円、彼は770万円になる。彼は腹だたしい気持ちになりながら、思案に暮れている。
 
 
交換の特例で課税減らせる

不動産どうしで所有関係を整理する場合、特例として「交換」することができる。適用の条件は(1)1年以上所有していること(2)土地と土地、建物と建物など同種の資産であること(3)取得した資産を、譲渡した資産の直前の用途と同じ用途に使うこと(4)双方の時価の差額が高い方の20%以内であることなど。

  このケースでも土地については、彼は都内の持ち分2500万円を譲渡する代わりに、弟の茨城の持ち分2100万円を受け取り、弟は逆となる。彼は400万円の譲渡損なので課税なし。弟は400万円の譲渡益から譲渡経費、所有期間に応じた譲渡所得の特別控除100万円を差し引いた分が課税対象だ。

  建物については、茨城の土地には立っていないので交換の特例を利用できず、東京の建物は弟がそのまま相続するのが原則だ。母親に預貯金などの金銭資産があれば、一部兄に振り分けることで遺産全体の公平な分割を図ることもできよう。
 
  筆者:伊藤佳江、籔本亜里