共同経営で友と険悪に
 
3年前、彼女(34)は家にじっとしているのがつまらなくなり、クッキングスクールに通い始めた。もともと料理は大好きだ。半年後、教室で知り合ったA子さん(33)と意気投合し、家庭料理風の総菜の店を一緒に出そうという話になった。結婚前は仕事をバリバリやっていた彼女は、主婦業のかたわら、いま一度自分の力を試せる機会ができたことを喜んだ。

  当面の資金1000万円をA子さんと折半で負担した。彼女は夫を口説き落として工面。老夫婦が廃業しようとしていた駅近くの小さな食堂を改造して使わせてもらうことにした。周辺にこれといった食料品店がなかったせいか、肉じゃが、きんぴら、筑前煮、煮魚、おから、肉団子がなかなか好評で、売り上げは順調に伸び、利益を2人で平等に分け合った。

  ところが1年を過ぎた頃、2人の考え方の違いが表面化した。作ることに充実感を持っていた彼女はメニューの拡張を提案した。

  「和風だけでなく、洋風や中華風にアレンジしたら、お客さんの層も広がると思うけど」

  これに対し、A子さんは食堂を併設したいと主張した。

  「カウンターを設けて定食を出すのよ。お総菜は今のままでいいから、ご飯とおみそ汁、豚汁などをつけて出せば、かなり売れると思うの」

  A子さんは、知り合いの主婦数人を仲間に入れたがった。

  話し合いは2週間ほど続いたが、結論は出なかった。そんなとき、彼女の娘や夫が次々とインフルエンザにかかり、彼女自身も胃を痛めて仕事を休みがちになった。当初は同情的だったA子さんも負担が重くなるにつれ、次第に冷ややかになった。利益の分配についても、A子さんは彼女の想定以上に多くを主張してきたので、2人の間に険悪な雰囲気が流れ始めた。

  休み明けのある日、彼女がお店に出ると、A子さんと、A子さんが仲間に入れたいと主張していた女性が和気あいあいと総菜の下準備をしていた。その様子を見て、彼女は急に寂しい気持ちに駆られた。

  「このお店にかかわっていくのはもう無理かな……なんとかお金を工面して始めたのにな」

  数日後、彼女は経営から脱退することを決心した。
 
 
責任重大、必ず契約書作ろう

経営するということは、法的な責任も発生することを肝に銘じておこう。例えば食中毒の発生など、大きな問題が起きたらどう対応するかも考えておかなければならない。あまり気軽にビジネスを始めてはいけない。

  共同経営する時は、たとえ友達同士であっても、契約書を必ず作ろう。問題が起きた場合の責任を誰が何%ずつ負うか、一方が脱退する際の対応方法、両方が経営を辞めると判断したときはどうするかなど、法律専門家と一緒に考えるべきだ。

  共同事業からの脱退は、原則としていつでもでき、辞める者は自己の「持ち分」の払い戻しを請求できる。だが「持ち分」の算定は現実には難しい。

  だから、払い戻しの算定基準を、事業開始当初に契約書で取り決めておくといい。このケースでも、契約書がなければすぐに脱退せず、しばらく時間をおいてからまず契約書を作る合意を取り付ける。そのあとで脱退することが適当だろう。
 
  筆者:籔本亜里、今井淑英