<彼氏のケース>差し押さえ?ウソだろ
 
彼(29)は、フリーになって3年目の出版編集者兼ライターだ。目下、頭を悩ませているのは2年間、滞納したままになっている国民年金のことだ。

  アルバイト先の出版社に、大学卒業後もそのまま就職し、5年勤めて退社した。フリー1年目は住民税の支払いに苦しんだ。会社にいれば、住民税も所得税も給料天引きだが、いったん手にした収入から自分で納めるとなると、負担感が増す。

  病院に行こうとすると、以前の保険証が使えないことに気づいた。あわてて役所で国民健康保険に入り、同時に国民年金保険の加入手続きも済ませた。

  しかし、これらの保険料支払いは、収入の不安定な身には重い。やりくりして健保の支払いは続けたが、さほど必要に迫られていない国民年金の支払いはついつい後回しになった。「いずれまとまったギャラが入ったら」などと思っているうちに、2年分もたまってしまった。

  フリーの仕事仲間には、「余裕なし」「老いたころには年金を受け取れるかどうか」と、加入手続きをしない人もいた。

  確かに、余裕はない。書籍編集、執筆の仕事では、報酬がもらえるのが通常でも3カ月か6カ月先。出版が遅れたりすれば、1年先になることもある。だから、入金が遅れても家賃や生活費が出せるように、常にある程度の蓄えが必要なのだ。

  「年金の保険料が未払いになっても、しかたないよなあ」

  だが、ある朝の新聞記事に、「強制徴収1万人 国民年金未納者対策」の見出しがあった。

  所得や財産があるにもかかわらず、保険料を納めない悪質な未納者約1万人を、社会保険庁がリストアップし、預貯金の差し押さえを含む強制徴収に乗り出すというのだ。

  「自分は収入が少ないから、悪質じゃない」

  そう思いつつ不安は募る。

  「宝くじは当たらないのに、こういうのに限ってなぜか当たるんだよな」

  保険料は、収入に関係なく一律で1カ月1万3300円だから、2年分で31万9200円。

  銀行にそのくらいの預金はあるが、それはあてにしていたギャラが入らなかったときのために、できればとっておきたい。

  「払うべきものは払うしかないか。でもなあ……」

  彼は決めかねている。
 
 
保険料免除もある国民年金

生活苦の場合、国民年金の保険料が免除される制度がある。

  所得が一定の基準を下回り、申請が通れば、この制度で全額免除してもらえる。

  昨年4月からは半額免除制度もできた。全額免除より所得制限が緩やかなので、役所の国民年金課に申請するといい。

  保険料全額免除の場合は、本来給付されるはずだった額の3分の1を、半額免除の場合は3分の2をそれぞれ受け取れる。

  また、免除された期間から10年以内であれば、さかのぼって納めることもできる。

  最もまずいのは何もせずに未納のままにしておくことだ。公的年金は老後の年金のほか、障害、遺族年金もある。単車事故などを起こして体が不自由になったとき、年金が一切もらえないという事態も起こりうる。

  保険料は納付期限から2年以内なら払える。未納のままでは無年金となってしまうが、免除制度をきちんと利用していれば万が一の時にも安心だ。
 
  筆者:秩父啓子、安田洋子