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彼(45)が父親名義の200坪の土地にアパートを建てようと思い立ったのは昨年の暮れ。土地の評価額が下がって相続税対策になるし、家賃という副収入も見込める。勤め人の彼には一石二鳥だ。父親に相談したら、「お前の好きなようにしろ」と言う。彼は早速、近隣の住人の了解を得るために出かけた。
土地は自宅から車で20分。訪ねるのは初めてだった。不動産屋を営む父親がバブル以前に将来の開発を見込んで買った。だが、開発のめどが立たず様子を見ていたところ、大病を患ったり足腰を痛めたりして、いつのまにかそのままになっていた。
「しばらく工事でご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」。彼は土地の周囲の住人に説明して回った。
ところが、古くなった家財が置かれ、倉庫や物置が境界をこえて建てられている場所があった。3メートル以上は食い込んでいる。境界石はないが、古いサザンカの木が境界だったはずだ。住人は更地のままで放置されていた土地の一部を事実上自由に使っていたのだ。
「ここ、うちの土地なんで困るんですが……。家財などはともかく、倉庫や物置とか壊して移動してもらえますか」
彼の注文に住人は意外とばかりに答えた。
「そんなむちゃな。ココマデハうちの敷地でしょ。別にさくはないけれど、うちは10年以上前にココニ、倉庫を作ってずっと使ってきているんだから」
「でも、ココマデうちの土地のはずです」
「そんなこと言われても、お宅ら今まで何も言ってこなかったじゃない……」
彼は家に戻り、父親に問いただした。「あそこは、はっきりせんかもね。使っていいと言った覚えもないんだがなぁ……」
何度聞いても当を得ない。
この際と思い、土地の面積を測りなおしたところ、実際は登記簿上の面積よりも広いことがわかった。
この数カ月、彼は土日に出かけては住人と交渉を重ねている。新しく測った実測値との差を持ち出すと、「それはよかった。では、ココハ、うちのものでいいでしょ」と訳のわからない答えが返ってくる。いっそのこと境界線が浮き出てこないかと、彼は恨めしく思っている。 |
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