|
「おたくのお子さん、スーパーで万引きしていたわよ」
彼女(42)は、高校1年の息子(16)の同級生の親から言われ、ショックを受けた。
本人に問いただすと、息子は目をそらして小声で答えた。
「腹減ってたんだよ。お金なかったし……」
元来おとなしく、万引きするようなタイプではない、と彼女は思っていた。中学での成績も上位。「勉強もいいけど、もう少し遊んで欲しい」と望んだほどだった。
ただ最近は、仕事に追われて、目が行き届いていないという不安もあった。
2年前、夫(44)が経営する小さな印刷会社が倒産寸前になり、夫婦で休む間もなく朝から晩まで仕事取りに駆け回るようになった。起きるとすぐに家を出るので、息子の弁当を作る時間はなかった。机に千円札を1枚おいて「コンビニで」と走り書きを残すのが精いっぱい。帰宅も遅いから、夜も同じだ。
よく聞けば、毎日コンビニ弁当で済ます息子の姿を見た同級生が「貧乏なんだろ。一緒に稼がないか」としつこく誘ってきたのが、万引きのきっかけだった。断ると、靴で頭を何度もたたかれるという。
翌日、彼女は息子と共にスーパーの店主に万引きの件を謝りに行った。そして、その足で高校に出かけ、担任教師に万引きの経緯を相談した。息子を誘うグループがいる、どうしたら止められるだろうか、と。
教師は「わかりました。注意をしておきますので、しばらく様子をみましょう」と答えた。
数日後、高校から会社に「息子さんがここ何日か学校に来ていない」と電話があった。
慌てて帰宅すると、息子が部屋で寝ていた。髪の毛をつかまれた顔を携帯電話のカメラで撮られ、その映像を回され、笑いものにされているという。息子の悔し涙がベッドにこぼれた。
翌朝、彼女は息子をなだめ、祈るような思いで学校に行かせた。ところがその日、息子は同級生2人に骨折などの大けがをさせてしまった。万引きの誘いから逃げようとして、石を投げ、棒を振り回したのだった。
けがをさせたのは悪い。しかし、息子を追い込んだ原因はほかにもある――。彼女は、何もしてやれなかった自分を責め続けている。た。 |
|