<彼氏のケース>音楽の夢破れ職探せど
 
「老親に生計を頼る未婚の子が増加」「ハローワーク、35歳以上リストラ世帯主を支援」

  そんな記事が新聞や雑誌に掲載されていると、彼(36)は無性に腹立たしくなる。

  彼にはずっと、大きな目標があった。「ぜったいにメジャーになってやる」

  小さいころからギターが好きで、中学に入ると先輩に連れられてライブハウスをめぐり、ロックバンドを組んだ。勉強をしなくても成績は常に「中の上」。大学時代も連日のように路上ライブを続け、リクルート・スーツに衣替えした同級生たちを見て、「夢を追えないのは可哀想」と思った。就職活動はしなかった。

  卒業してからは、昼間は引っ越し業者のトラックの助手席に座り、夜は週に4日はバンドの練習。両親と同居していたので、収入の大半を楽器とライブ費用につぎ込むことができた。

  もちろん、経済的に自立したかったが、よほど成功しないかぎり食えない職業だ。「続けていれば、そのうち芽がでる」と、両親は彼に寛容だった。

  だからこそ夢をしっかり持たねば、と13年間やってきた。ところが、兄弟同然だったバンド仲間の家業がつぶれた。「家の借金を返さなければならなくなった。定職につくよ」。バンドはあっけなく解散した。

  職を探そうと、ハローワークに行ってみた。

  卒業後にアルバイトを探しにきたときとは違って、求人広告前には黒山の人だかりができ、窓口に大勢が殺到していた。彼には特技もない。資格もない。できる仕事は限られていた。やっとタクシー運転手の募集を見つけ、履歴書を書いて夕方窓口に行くと、すでに募集広告自体が消えていた。

  以来、バイク便の運転手やペンキ塗りのバイトなどを繰り返し、定職が見つからないまま1年がたつ。

  父親は半年前に退職し、年金暮らしに入った。10年前とは全く風向きは変わった。

  幸運なことに、郊外に持ち家があり、家計にも余裕がある。しかし、このまま両親の年金を食いつくして一生を終わるのか。せっかくここまで応援してくれた両親に対して申し訳がたたない。独身のまま2人の老後をみるのか……

  このごろ、八方ふさがりの人生しかないのかと、憂うつになる。
 
 
目標決めてとにかく自立を

フリーターの平均月収は12〜13万円、年収150万円。たとえ長期勤務しても昇給がほとんどない。たとえば首都圏の30歳代の会社員への調査では、過去にフリーター経験のある人とない人では年収に大幅な開きが出ているという。病気やけがで働けなくなった時の保障もない。

  まず、自分にできることは何か、どうしたいのかを冷静に考え、目標を持とう。そして親元で生活しているなら、せめて親が元気なうちに、その収入から専門的な知識や技能を身につけるための資金を工面し、目標に向けてキャリアアップへの一歩を踏み出したい。

  ハローワークでは今、10件応募して2件面接にいければ御の字。エネルギーのある人から採用されていくようだ。また、企業への就職に限らない。農業を営むなど、いろいろな生き方があっていい。大切なのは、目標を定めて自立することだ。
 
  筆者:桐山朋子、塩見統子