地道な内職と思いきや
 
パソコンが好きな彼女(30)はある日、メールマガジンに載っている広告に目をとめた。

  「自宅で家事の合間にデータ入力。うまい話で高収入などなし。地道にコツコツが一番。業務の確実な提供で月8万円の収入あり。詳細は資料請求を!」

  息子(4)は、しだいに手がかからなくなっていた。化粧品販売会社で仕事を覚えた矢先に結婚退職してしまったことを、ちょっぴり後悔してもいた。何かしなければなぁ……。だが、インターネット上で見る内職の広告は、高収入保証という「都合のいい話」が多い。これは地味な表現で信用できそうだなと思った。

  3日後、A4の紙5枚ほどの資料が届くと、内職業者からすぐさま電話がかかってきた。

  「資料の補足説明のためにお電話しました」

  女性が滑らかに話し始めた。

  「データ入力といっても、相応の能力が必要です。パソコン検定の資格はお持ちですか」

  彼女が持っていないと答えると、これを機に取得してみてはどうかと、教材のCD−ROMを勧められた。

  「教材費45万円は高いとお感じかもしれませんが、資格があれば単価1万円の仕事もあり、すぐもとがとれます。分割のお支払いも可能ですので」

  将来の再就職を考えれば、パソコン検定も悪くはない。資格をとるまでは、業者が実施する「簡単なテスト」を受ければ仕事も提供されるという。彼女は教材を申し込むとともに、業務スタッフに登録した。

  1週間後、内職が始まった。入力が求められる資料は電気関係の文書で、手書きの文字が小さく、所どころ読みづらい。仕上げれば5万円になる。ところが、2週間後に口座に振り込まれたのは1万円だけ。彼女は苦情の電話を入れた。

  「なぜ1万円なんですか」

  「入力ミスが、けっこうあったんですよ」

  電話の向こうで、男がつっけんどんに言った。彼女は「おかしい」と直感した。

  「仕事の契約を全部破棄してもらえませんか」

  「無理ですよ。クーリングオフ期間はもう過ぎています。どうしてもとおっしゃるなら違約金をお支払いください」

  これが内職商法か――彼女は電話口で言葉を失った。
 
 
契約解除期間は20日間ある

内職商法の被害が後を絶たない。最近は手口も巧妙だ。在宅で仕事ができることを強調するが、実態は50万円前後の高額な教材販売を主目的としたものが多い。教材で学んで、仕事を身につけ、その報酬でローンを払えば「もとがとれる」と誘うが、それが「地道にコツコツ」であるはずがない。広告や業者の話をうのみにするのは禁物だ。

  内職商法は特定商取引法の「業務提供誘引販売取引」なので、クーリングオフ(契約解除)の期間は20日間。悪徳業者は通常の8日間と記載した契約書を使う場合があり、注意したい。

  このケースでも、「8日間」とあれば、契約書面の不備を理由に解約できる。クーリングオフを書面でおこない、確実に業者に送付すれば、支払った代金はすべて戻るし、違約金などを払う必要はない。「担当者が不在」「人をお宅に行かせる」などといって期限切れまで時間を稼ぐ悪質な例もあるので、決然と素早く処置をしよう。
 
  筆者:樋渡順、籔本亜里