とにかく早く別れたい
 
インテリアの販売会社に勤める彼女(38)は、仕事が終わると憂うつになる。14年間連れ添ってきた夫(39)とは、食事も寝室も別の「家庭内別居」状態にある。顔も合わせたくない。それでも、小学校にあがったばかりの一人娘(6)を思うと、勇気を出して家路につく。

  夫は大学時代のサークルの先輩だ。工学部出身だった彼は、中堅の建設会社に就職した。結婚当初は、盛んに国土を開発する夢を情熱的に語っていた。彼女も一緒にいて、毎日が楽しかった。生活費は折半で、結婚してすぐに小さなマンションを共有名義で買った。

  しかし、5年ほど前から歯車が狂い始めた。資金を絞りに絞って下請け企業を働かせる現場のモラルのなさに、いつしか慣れてしまった夫は、仕事での夢を口にしなくなった。月20万円ほど分担してくれていた生活費も、「仕事上のつきあいが多いから」などと何かと理由をつけては額を減らした。3年前からは、ついにゼロになった。

  そして2年前、夫は上司の横領事件に加担したという濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)を着せられ、左遷された。生活は瞬く間に荒れた。酒におぼれ、ギャンブルに手を出し、ささいなことで彼女に暴力を振るうようにまでなった。

  最初は彼女も、夫の気持ちを理解しようと努めた。しかし、夫の生活はもとに戻らず、理由のない彼女への怒りが、娘に飛び火することさえ起きた。

  「娘には手を出さないで。そんなにイライラするなら別れましょうよ」

  彼女が離婚を口にするたびに、彼はさらに逆上し、殴りかかってきた。

  何度か家を出た。娘を実家に預け、友人の家に逃げ込んだこともある。だが、夫は会社帰りの彼女を尾行し、居所を探しあてた。

  「いまは一刻も早く別れることが、私たちが幸せになれる道なんです」

  といっても、彼女の手持ちは300万円。夫がいくら持っているかはわからない。慰謝料を求めても、どれだけもらえるのかも不明なのだ。

  「養育費なんて無理でしょう。自分でしっかり稼いでいくつもり」。彼女は決意を固め、裁判所へと向かった。
 
 
慰謝料、財産分与は後回しも

離婚が夫婦の協議で決まらなければ、どちらかが家庭裁判所に調停の申し立てをする。調停で話し合いがつかなければ、地方裁判所に離婚訴訟を起こす。このケースでは、夫の生活費不払いや暴力が離婚の原因なので、慰謝料も請求できる。

  もっとも、まず夫が離婚に応じるかどうかがポイントなので、とにかく早く別れたいのなら、離婚についてだけ調停を成立させ、慰謝料などの金銭問題は後にまわすことも一案。離婚に加えて慰謝料請求もあると、夫が態度を硬化させることが多いからだ。そうすると、たとえ裁判に持ち込んで妻が勝訴しても、夫が上訴し裁判が長引くこともある。

  離婚後に慰謝料を請求するには、調停か裁判を起こす。原則として離婚後3年たつと請求できなくなるので注意が必要だ。財産分与を求めるには、離婚後2年以内に家庭裁判所に調停か審判の申し立てをしなければならない。いずれも、夫が会社に勤めていて定期収入がある間に請求した方が得やすい。
 
  筆者:本橋美智子、籔本亜里