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「サラ金には絶対に手を出すまい」と、彼は誓っていた。だが、本当に追い込まれると、後先など考える余裕はなくなる。気がつくと、彼(48)の借金は1千万円を超えていた。
携帯電話の部品を製造する会社を辞め、東京郊外で独立したのは10年前のことだ。当初は順調だった。以前の同僚2人も呼び寄せ、忙しいときにはパートタイマーも雇った。
起業する数年前にマンションを購入していた。勤め先の信用もあって、銀行はお金を貸してくれた。約5千万円の物件で、ボーナス併用払いの35年ローン。2人の子供たちは「私たちのおうち」と大喜びをした。
ところが、数年前から得意先からの仕事がめっきり減り、収入は激減した。5人いた従業員に給料が払えない。泣く泣く、みんなに辞めてもらった。
しばらくは預貯金の取り崩しや生命保険の解約、親類からお金を集めてくれた妻の協力もあって、何とかローンを支払っていた。それが2年前から、長女の大学進学のために借りた教育ローンの返済も重なり、いよいよ苦しくなった。
「1、2回なら」と手を出した消費者金融、カード・ローン、銀行のキャッシング……。最初は数万円だったが、雪だるま式に膨らんでいった。
マンションを売ろうにも、1年たっても買い手がつかない。せめて低金利のローンに借り換えよう、と銀行に相談した。
「マンションですか。土地価格は急落し、新築がどんどん安く建っているので、供給過剰なんですよね」と、言われた。物件を査定してもらった結果、担保価値が不十分で借り換えも実現しなかった。
ダメか……。何も考える力をなくした彼の目に、一枚の看板が飛び込んできた。
「あなたの債務整理します」
彼はすぐに電話をかけて、事務所を訪ねていった。
「提携の弁護士があなたに代わって借金を一本化します。手数料としてまず50万円です」
男性事務員が、書類を差し出して署名するように促した。いまとなっては、どんな書類だったかも覚えていない。ただ、借金から逃れたい一心だった。そのあと、さまざまな名目で次から次に現金を要求されることを、彼は知るよしもなかった。 |
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