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「奥さん、払ってもらえる? たまってんだからさぁ」
借金の取り立て屋が「ご主人に仕事で金を貸した」「だんなの飲み代のつけだ」などと、彼女(38)の家に次々とやってくるようになったのは1年前のことだった。
夫(44)とは、10年前に結婚した。中堅商社で、食品の輸入を担当する営業マンだった。夫婦のための新築マンションも買った。
5年後の結婚記念日に、夫が切り出した。「食品輸入で独立したい。独立するなら40歳を前にした今なんだ」
夫は自分1人の会社を立ち上げた。最初の3年ほどは少しずつ売り上げも伸びた。
ところが2年前、大口取引先の会社が破綻(はたん)し、売掛金が回収できなくなった。あっけなく、連鎖倒産に追い込まれた。
夫は打ちひしがれたが、自宅のローンの支払いなど、日々の出費は待ってくれない。彼女は広告会社の営業の仕事を始めた。夫も親類から借金をして、再び会社を立ち上げた。それから1年、2人は必死だった。少なくとも彼女は、そのつもりだった。
夫は顧客の開拓という理由で、どんどん遠方まで足を延ばすようになった。しだいに帰宅が深夜になり、そのうちに何日も帰ってこない日がでてきた。気にはなった。しかし、夫は夫で頑張っているのだと信じて、彼女も仕事に励んでいた。
ちょうど、借金の取り立てが始まったころ、夫がある所で女性と暮らしていることがわかった。4カ月前からは、全く家に戻らなくなった。そして、「離婚してくれ」と言い出した。
2カ月前、彼女が住むマンションを、夫が売ろうとしていることが、不動産会社からの連絡でわかった。夫は「頭金を出したのはおれだし、ローンだっておれが払ってんだから、おれの自由だろ」の一点張りだ。借金のためなのか、先方での生活のためなのか……。
確かにマンションは夫の名義だ。「だからって、勝手に家を出ていった夫が、この家を売るなんて、あんまりだ。私が何をしたっていうの……」
借金の取り立て屋は、今日もまたやってくるだろう。
ここまできたら離婚しかないのか。でも、その後の生活はどうなるの? 彼女は整理がつかないでいる。 |
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