叔母の財布をどう守る
 
20年以上も音信不通だった叔母(72)が、彼女(42)と同じ市内に住んでいることがわかったのは2年前のことだ。家を探して訪ねてみると、叔母はひとりで6畳一間のアパートを借りていた。夫はすでに他界し、年金生活だという。

  せっかく近くに居るのだからと、彼女はちょくちょくアパートに顔を出し、掃除などを手伝い始めた。

  ところがこの半年、叔母のようすが何となくおかしい。年金が振り込まれると、近所の親しい友人3人に1万円ずつあげたり、財布を落としたりする。

  「ひょっとして、痴呆(ちほう)症?」

  市役所の相談窓口に叔母を連れて出向いてみた。「身内なんですから、お金の管理はあなたがなさったらいかがですか」。対応はあっさりしていた。

  叔母も「そうだね、預かってもらったら安心だね」という。とりあえず、通帳とカードを預かった。何かあったときのためを思って、叔母の同意書も作っておいた。

  翌月、年金が振り込まれた日に、彼女は銀行の現金自動出入機(ATM)から、叔母の預金を引き出そうとした。しかし、エラー表示が出ておろせない。3回目の操作をしていると、銀行の係員がやってきた。

  「お客様、ちょっとこちらへ」。そして言われた。

  「お客様、このカードには盗難届が出ています」

  叔母は誰かに通帳を盗まれたと思いこんでしまったようだ。銀行員に叔母の同意書を見せ、事情はわかってもらった。だが、「ご本人からのお申し出なので、当行としてはいかんとも。通帳とカードはこちらでお預かりさせていただきます」と没収されてしまった。

  情けないやら腹が立つやら。彼女は、ことの真偽を確かめるべく、その足で叔母のところへ向かった。ところが、叔母は要領を得ない返答を繰り返す。

  泥棒扱いされてまで通帳を預かることはできない。そう思って、彼女はお金にかかわらないことにした。でも、ときどきアパートに立ち寄ると、叔母は「誰かにお金を取られたからもう一銭もない」と空っぽの財布を見せることもある。

  痴呆症が進んでいるようだ。早くなんらかの手を打ってあげたいのだが……。
 
 
財産管理には「後見制度」を

痴呆症などになった人の財産管理のために、配偶者や4親等内の親族らが、家庭裁判所に後見開始の申し立てをする方法がある。後見制度には、精神上の障害が重い順に「後見」「保佐」「補助」の3段階がある。なかでも、痴呆症がかなり進んだ親族を「後見」する人を成年後見人といい、親族や弁護士、司法書士らの専門家が就任して、全面的に本人を代理し、財産を管理する。もっとも、日用品の購入などは本人が行うことが認められている。「保佐」や「補助」は本人の症状がそれほどひどくない場合の制度で、本人の自主性がより尊重される。

  このケースの場合は、判断能力が全く欠けるとも言えないので、「保佐」か「補助」にあたると考えられる。審判には、1カ月程度かかるので、それまでは保全処分などを利用して財産を守る。金融機関にも「後見開始」の証明書を提出しておけば、このケースのように銀行でもめることはない。
 
  筆者:伊藤佳江、籔本亜里