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広告やパンフレットを作る小さな会社で、営業職のアシスタントをしている彼女(34)はパートタイマー。4年前から、6カ月契約を8回更新してきた。
性格の不一致が理由で離婚し、再出発をしようと思っていたとき、知人から今の勤め先を紹介された。従業員は40人ほどで、賃金は低いが、事務処理能力を評価されて、彼女なりに楽しく仕事をしてきた。
半年前、妻子ある社員と恋におちた。小さな仕事でもまじめに取り組み、顧客に対して律義すぎるくらい丁寧に接する彼の姿に好感を抱いた。彼も、正社員に負けないくらい営業事務をハキハキとこなす彼女に自然にひかれた。彼には、離婚のつらさを素直に語れた。
2人の関係は周囲にも感づかれてはいた。だが、仕事に支障をきたすわけではなかったので、同僚たちの間では、それほど問題にはなっていなかった。
しかし、あるとき、男女関係にうるさい女性取締役から、役員室に呼び出された。
「どういうつもり? あなたのような人は、ほかの社員にも害になるわ。辞めてもらってもいいのよ」
耳を疑った。害って、どういうこと? 返したい言葉は山ほどあったが、「仕事面で周りに害だとは思いません。ちょっと仲がいいからといって、そんな言い方はないと思います」とだけ答えた。それ以上言ってもわかってもらえるとは思えなかった。もちろん、会社を辞める気持ちになどならなかった。
しかしその後、取締役の風当たりは、明らかに強く、厳しくなった。すれ違ってあいさつをしても返事もない。仕事がたまって遅くなると、「早く帰れ」と言わんばかりに彼女をにらみつけてきた。
「そんなに私を辞めさせたいのだろうか……」。彼女は日々気分が重くなるのを感じた。
契約更新の一週間前。彼女は再び取締役に呼ばれた。
「来週で契約期間が切れるので、契約を終了させてもらいます。ご苦労さまでした」
まさか契約を打ちきられるとは思っていなかった。翌週の仕事の日程も準備していた。このままでは収入がなくなり、金銭的にも行き詰まってしまう。突然の「雇い止め通知」を前に、彼女は立ち尽くすばかりだ。
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