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「私の人生、これでいいのだろうか?」
社会人歴15年目。両親と同居し続けている彼女(37)は、日増しに漠たる不安が膨らむ。
バブル最盛期に大学を卒業し、両親が「ここなら安心」と太鼓判を押した大手メーカーに、一般職として入った。若い女性が夢中になった生活情報誌「Hanako」が流行語になったころで、彼女も「Hanako」族の一人だった。
だが、気がつけば、仕事は単調な繰り返しばかり。部署が変わっても、内容はたいして変わらない。いつのまにか、周囲は派遣の若い女性ばかりになっていた。年収650万円に不満はないが、何の刺激も面白みも感じない。
恋愛経験もそれなりに重ね、結婚を考えたこともあった。しかし、同年代の男性にはどこか頼りなさを感じ、寂しさを埋めようと不倫に走った。「後ろめたさは感じるが、居心地の良さから抜け出せない」のだ。
ひとりっ子の彼女に愛情を注ぎ続けてきた両親は、まもなく還暦を迎える。このままだと、子どものころから暮らしてきた家で、年老いた両親の面倒を一手に引き受けることになる。それが現実になる日もそう遠くないだろう。
「もし、両親が死んだらひとりぼっち。それで果たして生きていけるだろうか」
この環境から抜け出そうと、彼女は一念発起した。
いま自分にできること――。
自分の生命保険すら親任せだった。まず、母親が大事にタンスにしまっていた自分名義の保険証券を持って、保険会社に出かけた。両親が毎月払い続けてくれた終身保険は、今解約しても300万円弱。独り身には不相応と考えて解約し、両親の負担を打ち切った。代わりに、自分名義の口座からの引き落としで、充実した医療保険に加入した。
「人生の棚卸し」「会社を離れたネットワークづくり」といったタイトルにひかれてセミナーに行くと、参加者の大半は定年後の男性。60歳で退職した場合、老後に4500万円かかるという。彼女はもらった資産管理シートに書き込んでみた。
「まだ遅くはない。勇気を持って現実と向き合おう」
第一歩として、彼女は不倫の恋の幕を下ろし、ひとり暮らしを始めようと決意した。 |
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