中堅メーカーで経理、総務担当の彼女(35)は、1年ほど前、直属の上司と夕食をした帰り道、強引に言い寄られた。
「おれの言うとおりにすれば、君の身も安泰だよ。君の成績はおれの筆次第なんだから」
社内で「紳士」と言われる人だっただけに、余計にショックだった。
会社の業績は極端に悪くはないが、採用人数は年々抑制され、給与の引き上げも微々たるもの。そんな状況下のセクシュアル・ハラスメントに考え込んだ。
「いまなら転職という道もある」と、彼女は、インターネットの転職サイトに登録。毎週のように求人情報を収集しては応募のメールを出すようになった。しかし――。
「当社では慎重に検討を積み重ねた結果、次の段階へ進んでいただくことはできなくなりました。あしからずご了承下さいますよう、お願いします」
30通余り送ったメールの返事は、どれも似たようなお断りの言葉ばかり。書類選考さえ通らない。数社、面接してくれたが、結果は出なかった。
「35歳で資格もないと、転職は厳しいですよ」
人材紹介会社でも、開口いちばん、そう言われた。
彼女は自分を磨こうと、社会保険労務士の資格をとることにした。勉強時間は平日の夜と土日。もうあとがないと思って必死にやった。ある程度知識があったせいか、運良く昨年の秋、合格できた。ただ、再び、彼女に悩みが持ち上がった。
「資格を取ったのはいいんですが、どこでどうしたら自分の価値を発揮できるのか。焦りもあるけど妥協もできないし」
そうこうするうちに、ほかの上司からも、暗に辞めろと言わんばかりの冷たい仕打ちが始まった。こっちから辞めてやる、とも思うが、踏ん切りがつかない。 |