結婚相手は「財産」なの?
 
  もう結婚はあきらめていた。インテリアデザイナーとして大手の家具メーカーに勤める彼女(50)は、結婚しないと決めていたわけではない。何度か恋もした。だがタイミングが合わず、結婚に至らなかっただけだ。

 転機は昨年5月に訪れた。取引先とのパーティーで知り合った57歳の男性に誘われた。何度か食事をするうち、「この人と人生の後半を一緒に過ごしたい」と思うようになった。彼は、10年前に脱サラをして輸入食器の販売会社を立ち上げた社長であった。

 彼には離婚歴がある。2人の間で結婚の意志が固まったころ、彼が言った。「長男と長女に会ってくれないか」

 数日後、長男(32)と面会した。緊張した面持ちであいさつをしてしばらくすると、強い口調で言われた。「会社の切り盛りや経営のこと、あなたにはわからないでしょうね」

 長男には父の事業を一緒に育てたという自負があった。近い将来、父のあとを継いで社長になるつもりもあった。唐突に現れた彼女の姿は、長男の心積もりに波紋を投げかけたようだ。

 別れた妻と同居する長女(30)と会ったときも同じだった。「なぜ、こんな年の父と結婚? 若い方がいいんじゃないですか?」

 彼には、百坪の土地と4千万円の貯金がある。2人の子どもたちは、彼と彼女が結婚すると、その財産を持っていかれると思っているらしい。長女はいずれ、彼の貯金からマンションの頭金を出してもらいたいとも思っていたようだ。

 もちろん、彼女に何ら野心はない。事業は長男に任せるし、彼の貯金も子どもたちのために使ってほしいと思う。ぜいたくもせず独身でやってきた彼女には貯金が2千万円あり、お金がほしいわけではない。

  「子どもたちのことは心配しなくていい」と彼は言ってくれる。しかし半年余りで数回、2人の子どもと会ったものの、関係はしっくりいかない。やっと理想の男性に巡り合えて固めた彼女の決心は、壁にぶちあたっていた。結婚という形態にこだわるべきかどうかも、迷っている。
 
 


熟年結婚の壁になりがちなのが財産問題。事業承継の点は、事業用財産や会社の持ち株などを長男に相続させる旨を公正証書遺言で記載しておく。その他の個人的資産も、遺産の一部を子どもたちに生前贈与するか、死亡時に贈与の効力を発生させる遺贈などの手続きをとる。遺言書を作成し、子どもたちに知らせておくのがよいでしょう。熟年結婚では、各人の財産が相当ある場合が多く、誰に相続させるかを率直に話しあっておくことが重要である。