知らぬ間に年金が減る
 
  メーカー勤務の夫が10月に定年退職した。一人息子もすでに社会人。「退職金と2人の年金をあわせれば、夫婦でゆっくり旅行もできる」。専業主婦の彼女(56)は悠々自適の第二の人生を楽しみにしていた。

 だが、計算が狂った。「小遣い欲しさに『生保レディー』なんかやるんじゃなかった……」

 先日、社会保険事務所に夫の年金の申請についていったときのことだった。手続きをひと通り終えると、窓口の係員が彼女の方に向き直った。

 「奥さんの国民年金、全加入じゃないから満額もらえません」

 サラリーマンの妻は、保険料を支払わなくても「第三号被保険者」として、国民年金がもらえるはずでは?

 係員の言った意味が分からず聞き返すと、「短期間でも働けば、辞めたあとに『第三号』の届け出をし直さないと、保険料未払いの扱いになります」。

 94年に、生命保険会社に勤める友人に誘われて、2カ月ほど「生保レディー」をしたことを、ふと思い出した。

 生命保険各社は当時、セールスの女性を次々、大量に入れ替えていた。仕事の能力がなくてもノルマを課せば、新人は親せきを保険に加入させるだろうというもくろみがあった。

 でも、彼女は1件も契約を取らなかった。「会社に印鑑を押しにいくだけでいい」という友人の言葉通り、営業所にときどき顔を出して、手取り約10万円の月給をもらった。

 3カ月目には、さすがに契約を取るよう言われた。営業所から足が遠のき、そのまま辞めてしまった。それ以来、会社が彼女を雇う際、厚生年金加入の手続きをしていたことに気づかないままだった。

 本来は年約80万円支給されるはずが、8年間の空白のせいで、12万円も減額されるという。社会保険庁の指摘を受けて、彼女はすぐに生保の本社に電話を入れた。

 「なぜ厚生年金に加入したことを教えてくれなかったの?」

 「給与明細を見れば、社会保険料が引かれていることは分かるでしょ」

  そんな回答に、彼女はますます暗い気分になってしまった。
 
 


同様のケースが生保の外交員経験者に続発している。短期間で辞めることが多いため、厚生年金に加入した意識がないのが実情だ。生保の研修会などに参加した人は社会保険事務所で加入歴を確認したい。2年間分の空白期間は取り消せるので、できるだけ早い方が望ましい。市区町村の役所では、国民年金の加入記録だけで、厚生年金のことは分からない。社会保険庁との情報のやりとりも十分ではありません。