ママも社員に戻りたい
 
  最初の子どもが生まれた時点で、働く女性の3分の2が会社を辞めている――。

 そんな調査結果を新聞で読んでも、「育児って、たいへんなんだなあ。でも、私は絶対3分の1の方ね」と、固く信じていた。ついこの間までは。

 広告プランナーとして15年のキャリアを持つ彼女(37)は1年前、初めての赤ちゃんを産んだ。産休、育休の取得は彼女が会社で初めてだった。

 先月末の職場復帰をめざして、夏場から準備を始めた。近くの保育園は空きがなかった。無認可のところは、時間外料金などをあわせると、月々の費用が10万円を超え、認可保育園より4、5万円高くなった。

 それでも、午後8時前には、彼女が迎えに行かなければならない。商社マンの夫は帰宅がいつも深夜だし、2人とも実家が遠くて頼れない。出産前のように深夜まで働くのは無理だった。そこで、こなし切れない仕事は自宅でやるからと、会社に勤務時間の短縮を申し出た。

 だが、もともと女性が働くのを好まない直属の上司は難色を示した。「うちには時短制度がないから、パート扱いだな」

 手取りの年収は休職前から半減して約240万円。その半分が保育費用に消える計算だ。

 懇意だった顧客は若手の男性が引き継いでいた。それを再び担当することも上司は拒んだ。おまけに、「パートには顧客を任せられない」と、正社員の補助業務をほのめかされた。

 彼女は気づいた。「会社は戻ってきてほしくないんだ」。9月末、退職願を郵送した。

 2週間後、会社の総務から突然、電話があった。実は、子どもが3歳になるまでの期限付きで時短制度が今春できていたというのだ。労組にも「職場に戻れるように育休延長を会社に認めさせる。後に続く女性のために頑張って」と励まされた。

 だが、彼女は結局、辞めた。上司の言い分が、いじめだったのか、本当に時短制度を知らないせいだったのかは分からない。どっちにせよ、お金の問題を通り越して、「向こうの本音が見え過ぎちゃった」。

  いまは、フリーで仕事を再開しようと準備を進めている。
 
 


今年4月から施行された改正育児休業法で、3歳未満の子を育てる者は勤務時間の短縮が可能になった。ただ、多くの企業は制度化せず、自己裁量に委ねているのが実情だ。やむなくフルタイムで働き、残業もこなすなら、高額な保育費覚悟で無認可保育園やベビーシッターに預けることになる。時間と金銭の節約には、会社に就業規則を変えさせることが大切。世の流れはその方向にあるので、時短の申請が突っぱねられても、繰り返し主張し、重圧をかけたい。