「中田みたいになるにはどうしたらいいのかなあ」
テレビでW杯サッカーを見ていた中学3年の一人息子が彼女(43)におもむろに言った。
サッカーをやっているわけではない。世界のひのき舞台でごく自然に振る舞い、活躍している姿にあこがれるという。
おとなしい性格で学校の成績は中の上。とりたてて傑出した才能があるわけではない。だが、自分の将来を考え始めた彼の真剣なまなざしに、母親としてできるだけのことをしてやりたいと思った。
フリーデザイナーの彼女は10年前に離婚した。彼が頼れるのは自分しかいないのだ。
友人に相談すると、「若いころから海外に出して、いろいろ体験させるのがいいかもね」という。「ただし、お金があればの話だけど」
1人で海外にやるなんて、と最初は不安に思った。治安や健康、それに寂しくないだろうか。だが、息子はあっけらかんと、「お母さんが許してくれるなら、ボクは平気だよ」と言った。
高校留学の案内書をめくってみた。欧米だと、学費や経費で年間280万円。彼女の手取りの半分以上が消える。とても手が出ない。豪州も170万円かかる、という。
隣県のインターナショナル・スクールの説明会に参加してみた。会場の体育館は親子連れで、座る席もないほど。入学金のかかる初年度は200万円、翌年からは約130万円。自宅通学できるし、留学より安価な点が最近、人気を呼んでいる理由のようだ。息子もまんざらではなさそうだ。
預貯金は600万円ある。老後で迷惑をかけまいと、こつこつためてきた。いま教育費に多くを取り崩すのは避けたい。
日本の高校ガイドも読んだ。どこも「交換留学」「夏休み短期ホームステイ」などを特色に掲げている。それなら本格的な留学は後にして、高校では、少しだけ海外のにおいをかがせるだけでいいのかもしれない。
公立や年間数十万円で済む私立なら、何の憂いもなく行かせてやれるのだけど。ついそう考えてしまう自分が情けない。 |