1歳の娘を育てながら、派遣社員として広告会社で働く彼女(35)は2年半ほど前、同じ会社に勤める夫の帰宅が以前よりも遅いことに気づいた。
徹夜の仕事と称して、朝帰りするようにもなった。ある日、自宅に置き忘れた夫の携帯電話をチェックしたら、何度も同じ番号にかけていた。社内のアルバイト女性のものだった。
問いつめると、彼は「あなたとは話が通じない。離婚してほしい」と悪びれずに言う。自分から家を飛び出したい気持ちにかられたが、思いとどまった。夫に未練があったわけではない。幼い子どもを連れて、将来の生活がどうなるのかという思いが頭をかけめぐっていた。
夫はよりを戻す気はなさそうだった。去年の正月休みは、その女性と海外旅行に出かけた。その後、週に1度しか帰ってこなくなった。
母子2人で暮らしているうちに、「意地でも別れない」というかたくなな気持ちに変化が芽生え始めた。私たちの幸せって、こんな夫にしがみつくことなのだろうか。
「離婚」が現実味を帯び出した。ただ、将来の生活費は確保しなければならない。夫婦の財産と、今後に必要な費用を試算してみた。結婚してすぐに買ったマンションは2人の共有名義で、ローンは夫が払っている。あとは2年前に買った車ぐらい。預貯金はほとんどなかった。
派遣社員だから、いつ職を失うかもしれない。マンションは譲りたくなかった。学費を含めた養育費ももらいたい。大学を卒業するまで1300万円以上かかる計算だった。
夫には、住宅ローンの支払いを続けながら、夫の持ち分を彼女に渡すこと、毎月7万円を支払うことを求めることにした。それに慰謝料ももらわねばならない。
「2人で交わした口約束は、いつ破られるか分かりません。法的に拘束力伴う調停に持ち込みましょう」
弁護士に言われ、有利な材料を集めた。夫が女性と乗った飛行機の半券、女性用バッグのクレジットカードの請求書……。
慰謝料は、どのくらい取れるだろう。不安を胸に、彼女は調停の始まる日を待っている。 |