夫を胃がんで亡くしてから3年。小学生だった一人息子は来年は高校に進学する。でも、首都圏郊外に住む専業主婦の彼女(42)は将来の暮らしが不安で仕方がない。
「あの資産運用っていったい何だったの……」
葬儀の翌日だった。スーツ姿の保険会社員が生命保険の支払いにやってきた。
労災など危険をともなう建築現場の監督だった夫は生命保険を多めにかけていた。死亡退職金とあわせて約1億円が死の代償として残った。家のローンも保険によって、すべて弁済された。
「いつでも、将来のお手伝いをさせていただきます」。そう言って男は帰っていった。
家の心配がなくなったのは救いだった。ただ、家計以外のお金をすべて夫にまかせていた彼女には、この先の暮らしの見当もつかない。結婚前、夫の会社で事務をしていただけで、働き口も見つかりそうになかった。
役所に行くと、遺族厚生年金と子どもの数によって決まる遺族基礎年金(マンガ参照)あわせて約160万円が毎年支給されるという。ただし、息子が高校を卒業すると基礎年金はもらえなくなる。
数日後、保険会社の男がまたやってきて、「息子さんの将来のために保険はいかがですか」とささやいた。
奇妙なことに、聞いたこともない別の保険会社や証券会社の社員が次々に訪ねてきた。計算機やパソコンのキーをたたいて、将来設計を描いてみせた。
息子が私立高校から理科系の大学に進学したがっているということも相談してみた。
「そうすると、いろいろと経費がかかりますね。これからは資産運用の時代ですよ」。誘われるまま、1億円を投資信託や国債、公社債につぎ込んだ。安心を買ったつもりだった。
ところが、ITバブルははじけ、3年間で預けた資産は半分以下になった。価値が3分の1になった株式投信さえあった。
「言われるまま投資に手を出した私が悪いのか、それとも彼らが私につけこんだのか」
何も知らず受験勉強に励む息子を気遣い、彼女は働きに出ることも考え始めている。 |