私はローン組めないの?
 
 史上最低金利、今が買い!

 そんな触れ込みに、彼女(35)は老後の備えにとマンション購入を思い立った。1年半前のことだ。大手企業の投資アナリスト。年収800万円、貯金は1千万円ある。が、どの不動産屋でも同じ問答の繰り返しだった。

 「ご結婚の予定は?」「特にありません」「じゃ、ムリですね」「えっ?働いてるのに」

 女性は結婚や出産で退職する確率が高く、購入した物件をあっさり手放すことも多い。だから、その収入をあてにローンを組むのはリスクが大き過ぎる。いつもそう言われた。

 ためしに、「近く結婚するんです」というと、とたんに相手の愛想がよくなった。

 「では、だんなさんの年収でローンを計算してみましょう」

 3カ月後、都心に近い閑静な住宅地に1階が店舗、2、3階が住居という物件を見つけた。

 買えると思った。3階を自宅にして残りを貸せば、仕事をやめても賃料が入る。5千万円前後と値は張るが、「投資だ」と思って決心した。

 だが、不動産屋には「お金を貸してくれる銀行は少ないでしょう」とやんわりと断られた。

 それならと直接、銀行に乗り込んだ。結婚予定はないというと、今度は父親の職業、年収、勤め先の業務内容を聞かれた。

 父は数年前に退職していた。「借りるのは私なのに、なぜ父のことを」。不愉快だった。

 1年がたち、あきらめかけたときに、ある大手銀行が「働く女性を応援」と銘打った住宅ローンを発売した。わずかな望みをかけて電話してみた。

 「お父様の収入によっては金利を優遇させていただきます」

 またか、とうんざりした。

 その後、この半年間で顧客の囲い込みとばかり、女性向け融資を宣伝する金融機関が増えた。そこで、以前と同じ銀行を再度たずねた。年収などを告げると、「女性向けより、もっとお得な通常ローンが利用できますよ」と言われた。

  あんなに冷たかったのに、手のひらを返したような態度! 貸す側の都合ばっかり。不信感が募った。何か落とし穴があるのではないかと、今は家を買うのをためらっている。
 
 


親や配偶者に代わる「保証」を数十万円で買ったり、男性より最高2%前後高い金利を払ったりすれば、銀行側も今は積極的に融資に応じるようになってきた。「年収150万円から」など条件の緩い商品もある。ただ、出産による返済猶予や返済期間最長45年などの誘い言葉に乗せられると、予想外に残高が膨らむこともある。突発的な退職、結婚ということも考えられるので、リスク回避のために売却や賃貸価値のある物件かどうかの見極めが大事です。